グレープフルーツを食べなさい
「何?」

 上村は手に持っていたサプリのケースを、空になったグレープフルーツの器の隣に置いた。

「昔、祥子さんが一人目を妊娠した時、つわりがかなりひどくてさ。唯一食べられたのがグレープフルーツだったんだよね。水飲んだだけでも戻してたのに、『私が食べなきゃ赤ちゃんが』って必死になって食べててさ。母親ってすげーんだなあって思った記憶がある」

「そうなんだ。祥子さん、そんなにつわりひどかったんだ……」

「だからなんとなく、そういうイメージはあったかも。グレープフルーツ イコール妊娠、みたいな」

「えっ?」

 上村の耳たぶがほんのり赤くなってるように見えるのは、私の気のせいだろうか。

「本当はずっと、香奈に子供ができればいいのにって思ってた。そうなれば、何があろうと香奈は俺といることを選ぶはずって……」

「……どうしてそう思ったの?」

「香奈、前に言ってたじゃん。鳴沢さんから身を引いたときのこと」

 確かにあのとき私は、『生まれてくる子供には罪はない。だから私の方が身を引いた』と上村に言った。


< 362 / 368 >

この作品をシェア

pagetop