グレープフルーツを食べなさい
「香奈なら、何よりもまず子供のことを考えると思ったんだ。子供にとって一番いい方法を考えるって。だから俺は、わかっててあのとき……」

「違う。違うよ上村」

 私は、声を震わせ下を向く上村の頬に両手を当て引き寄せた。

 上村はたぶん、あのときのことをずっと後悔していたのだろう。

 私のことを無理やり抱いたのだと。

 でも、それは違う。

「私はあのとき、自分の意志でそうしたの。決して無理やりでもあなたに流されたわけでもない」

「香奈……」

「それに、子供ができたってわかったときは本当に嬉しかった。子供の存在が、母さんを亡くして落ち込んでいた私に力をくれたの。この子はきっと、母さんが私にくれた最後のプレゼントなんだって思ったわ」

 上村から目を逸らすことなく、私は一言ひとことを噛み締めるように声にした。

 どうかこのことで、上村が心の中に僅かな憂いも残しませんように。

 そう願いながら。


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