グレープフルーツを食べなさい
「それに私は、上村の子供だから産みたいって思ったの。たとえ誰かに反対されても、この子だけは私が絶対に守り抜くって強く思った。だからもう悩まないで。どんなに些細なひっかかりでもいいから、ちゃんと話して。決して一人で抱え込まないで。家族になるんでしょう、私たち」

「香奈……」

 上村の表情が明るくなる。彼の心の靄が、少しずつ晴れていくのがわかった。

 あなたの心が暗い場所に沈んでしまいそうになったら、いつでも私がそこから連れ出してあげる。

 一人でもがき苦しむかっての私を、あなたが優しく包んでくれたように。

 自分から切り出した話題なのに、胸がいっぱいで何も言えなくなってしまった。

 すぐ傍に上村の気配を感じた。互いの唇が磁力を持ち、引き寄せられる。

 上村に応えようと目蓋を伏せたとき、ふと思い出した。そうだ! 上村は、勘違いしている。これからお腹のなかでどんどん大きくなる子供のためにも、これだけは言っておかなくては。


< 364 / 368 >

この作品をシェア

pagetop