グレープフルーツを食べなさい
「あのね、上村」

「な、なに?」

 不意をつかれて驚いたのか、上村は慌てて私から身体を離した。

「お腹の子供のためにもとても大切なことなの」

「……はい」

 真剣な私につられるようにして、上村も居住まいを正す。

「上村はさ、いつもグレープフルーツばっかり買ってくるけど、お腹の子のためにはそれじゃあダメなのよ?」

「はあ?」

 まさかここでグレープフルーツの話になるとは思っていなかったんだろう。上村は少し気の抜けたような表情になった。

「確かにグレープフルーツにも赤ちゃんに必要な栄養素は含まれているけど、別にそればっかり食べてればいいってわけじゃないからね。葉酸を含む食品は他にもいっぱいあるから、どれもバランスよく摂らなくちゃいけなにの。だからさ、次からはグレープフルーツばっかりじゃなくて、他のも持ってきて。たとえば……」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 何を思ったのか、上村は唇を噛んで必死に笑いを堪えてる。

「何よ、人が真面目に」

「うん、香奈はきっといい母親になるよ。ちょっと真面目すぎるのがあれだけど」


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