グレープフルーツを食べなさい
「随分と勇ましいですね。先輩を社内に閉じ込めておくなんて、なんだか勿体ないな」

 口元に笑みを浮かべ、上村は丸い氷の浮いたグラスに口をつけた。

 上村のチョイスはタンカレー。まあまあお酒好きな私でも、ほとんど口にしたことないほど強い酒だ。

「話は変わるけど……上村は私と鳴沢さんのことどう聞いてるの?」

 突然の私の質問に、上村は手にしていたグラスをカウンターに置いた。

「気になりますか?」

「まあね……」

 裏で私はどんなふうに言われてるんだろう? 大体予想はできる気もするけど、一度ちゃんと聞いてみたいとも思っていた。

 私はこれまで、誰かに鳴沢さんとの恋の顛末を話したことはない。

 ……本当のことなんて、誰にも言えなかった。

「先輩、ジントニックもう一杯いかがですか」

「……いただくわ」

 話してもいいという返事の代わりだろう。上村は早速、二人分のおかわりをバーテンダーに頼んだ。


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