グレープフルーツを食べなさい
 上村がこのまま笑い話にしてくれるかもしれない。

 そんな淡い期待が胸を過った。

「なんというか、鳴沢さんも案外詰めが甘いんですね」

 会社ではきっちりと仕事をこなし結果も残している鳴沢の不手際が、上村には意外に思えたのだろう。

「きっと相手は初めからそのつもりだったのよね。でも彼は、自分が嵌められたってこと全く気がつかないし。私と彼女の間で煮え切らない彼のことが段々情けなく思えてきちゃって、最後はもうどうでもよくなっちゃった」

 それにお腹の子供に罪はない。

 そのうち生まれてくる子供のことを考えると、私には迷っている暇なんてなかった。


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