グレープフルーツを食べなさい
 上村の足音だけが真っ暗な駐車場に響く。

 どうしよう、こっちに来るわ。

 逃げ出したいのに、どういうわけか足が竦み動けなかった。

 その時、突然足音が止み、目の前に上村の姿が浮かび上がった。

 暗闇から街灯の下に現れた上村の、私を見下ろす眼光の鋭さに圧倒される。

「こんなところで何してるんですか?」

「ごっ、ごめん。立ち聞きするつもりは……」

 普段の穏やかで優しい口調とは全く違う、上村の冷たい声音に思わず後ずさる。

「……へえ?」

「痛っ!」

 いきなり手首をきつく握られて驚いた。

 ギリギリと締め付ける痛みに顔が歪む。

「痛いよ上村。お願いだから手を放して」

 どうにかして逃げ出そうと、上村の手を振り払おうとしたその時、駐車場の方から先ほどの女性の涙まじりの声がした。


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