グレープフルーツを食べなさい
「……達哉ぁ、その人誰?」

 その声に、ようやく上村の力が緩んだ。

 しかしその手は私の手首をしっかりと掴んだままだ。

「ああ、こいつ? 俺の新しい女。ってわけで、おまえもう用済みだから、さっさと帰れよ」

 上村の言葉に女性はヒッとしゃくりあげ、再び泣き出してしまった。

「行きましょう、先輩」

「えっ? あの人は……」

「いいから」

 上村は、わけがわからず狼狽える私の手を取ると、強引に引っ張った。

「ちょ、ちょっと!!」

 私の抗議の声も上村には届かない。

 私はそのまま引きずられるようにして、上村についていった。


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