グレープフルーツを食べなさい
「上村……お願いだからちょっと待って!!」
 
「……なんですか」

 歩幅の広い上村に合わせてずっと駆け足で着いてきたけれど、もう限界だった。

 このまま私をどこに連れて行くつもりなんだろう。

 四月の夜はまだ肌寒いのに、額には薄っすらと汗が浮かんでいた。

「ちょっと……、どういうことなの? ちゃんと説明してよ」

「どうって、ずっと覗き見してたならわかるでしょ」

「覗き見って、上村……」

 本当に目の前の男はあの上村なんだろうか?

 冷ややかに私を見下ろす瞳、片方だけ僅かに上がった唇。

 混乱している私を見て、上村は明らかに面白がっている。

「先輩も案外ひどいよね。他人のことなんて興味なさそうな顔して、ちゃっかり……」


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