グレープフルーツを食べなさい
「今日は楽しく飲みましょうよ。俺がごちそうします」

 ひょっとして、口止め料のつもりなんだろうか?

 でも、食事やお酒で簡単に上村なんかに屈したくはなかった。

 それにアルコールが入って気分が良くなれば、上村も口を滑らせるかも。

「わかった。遠慮なくいただくわ」

 満足そうに頷く上村を見据え、今度は私からグラスを合わせた。

                                   
 おかしい、と思ったのは、お手洗いに立った時だった。

 鏡の前に立つと、やけに視界が霞む。

 残業続きで疲れが溜まっているのに、上村にうまく乗せられて慣れないワインを飲みすぎたのかもしれない。

 席に戻ったら何かソフトドリンクを頼もう。

 そう思いながらふらふらと店内を歩いた。

「あっ!」


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