グレープフルーツを食べなさい
「そんなに酔ってるのに? 女の人一人で危ないでしょう」

 そう言って私を支える上村は、いつも会社で見る紳士的な上村だ。

 さっき見たあの光景は、本当に起きたことなのかしら。

 ひょっとして私、夢でも見てた?

「俺は鴨池なんで先輩のうち通り道ですよ。相乗りして帰りましょう」

 そう言うと、上村はたまたま少し先で客を降ろしたばかりのタクシーを捕また。

「あっ、上村……」

「いいから」

 断わる間もなく、上村は私をタクシーに押し込んだ。

「運転手さん、先ずは荒田までお願いします」

 無口な運転手は頷きもせずアクセルを踏み込んだ。

 やっぱり私、飲み過ぎたみたい。

 車の心地よい振動が私を眠りに誘い私はあっけなく眠りに落ちた。


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