グレープフルーツを食べなさい
「……先輩、……先輩!」

 揺さ振られて光が戻る。

 返事をする間もなく、上村は私をタクシーの外へと引っ張り出した。

 よろける体を必死で立て直す。

「あ……、上村?」

 眼前に、上村の仏頂面。

 タクシーに乗り込む前とは打って変わり、不機嫌そうに眉をしかめている。

「あー、ごめん。寝ちゃったんだね、私」

「まったく。何度起こしても起きないから、悪いけど財布の中の免許証見せてもらいました。マンションここで間違いないですよね?」

 そう言われて辺りを見回すと、そこはよく見慣れたマンションのエントランスだった。


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