グレープフルーツを食べなさい
 無言で腕を取られ、上村に引きずられるようにしてエレベーターに乗り込んだ。

 私は四角い箱の中で、再び襲う眠気と必死で戦った。

 エレベーターの階数表示が数字の3に変わる。

 上村は再び私の手を取り、薄暗い廊下に足を踏み出した。

 夜更けのマンションの廊下を、二人の足音だけが固く響く。

 上村はもう私を支えようとはしない。早く私を送り届けて解放されたいんだろう。私は先を行く上村の背中を無言で追いかけた。

「開けて、鍵」

「あ、はい」

 上村に促され、慌てて鞄の中を探る。

 酔いが回っているせいで、なかなか鍵を見つけられない。

 ようやく鞄の内ポケットの奥に鍵を見つけた。覚束ない手つきでなんとか鍵を取り出すと、これ以上は待てなかったのか、上村は私から鍵を奪い取り、さっさとドアを開けてしまった。


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