グレープフルーツを食べなさい
 上村に手を引かれ、中に入る。自分の部屋の匂いに安心した私は、電気もつけずにそのまま玄関先に座り込んだ。

「ごめん上村。本当にありがとう」

 頭を抱えそう言っても、上村が部屋を出る気配はない。

 顔を上げると、何故か挑戦的な笑みで私を見下ろす上村がいた。

「あ、鍵。そこに置いといてくれる?」

 私はシューズボックスの上を指差した。

 でも、上村はなかなか鍵を返そうとしない。

「上村、だから鍵。まだ持ってるよね?」

 今度は上村に向かって手を伸ばした。

 早く楽な服に着替えて、ベッドに飛び込みたいのに。

 何を考えてるんだか、上村はやはりにやけた顔で私を見つめている。


「ここまでしてやっても、先輩が俺のこと黙っているっていう保証はないよね」


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