グレープフルーツを食べなさい
「あれっ……」

 意外なことに上村は道具の扱いにも馴れていた。

「はい、先輩も一杯どうぞ」

 上村は自信あり気な様子で私にお茶を勧めてきた。

「ありがとう……」

 湯呑みを両手で受け取ると、お茶の冴えたグリーンが見えた。立ち昇る香りも芳しい。

 一口含むと、爽やかな苦味が口の中いっぱいに広がった。

「美味しい! 意外だわ。本当に上手いのね」

 この味なら、野々村部長も満足してくれるんじゃないだろうか。

 上村は満足そうに微笑むと、お盆の上の部長の湯呑みにお茶を注ぎ、お盆ごと私に手渡した。

「またいつでも淹れてあげますよ。じゃあね、先輩」

「えっ?ちょっと、上村!」

 持っているお茶を零しそうで、上村を追いかけられない。

 こうするために、わざわざ自分でお茶を淹れたんだろうか? 

 やられた。ホントになんて奴!!。

 結局また、鍵は返してもらえなかった。


< 79 / 368 >

この作品をシェア

pagetop