グレープフルーツを食べなさい
◇◇◇◇◇◇

「お先に失礼しまーす」

 数名の女の子たちが定時ちょうどにパソコンの電源を落とし、そそくさと更衣室に消えていった。

 いつもはもうちょっと遠慮して、定時5分過ぎくらいまではデスクにいるのに。

 デスクの上のカレンダーを見て、「ああ」と思い出した。

 そういえば今日は飲み会だって言ってたな。

 どうりでみんな早いわけだ。今頃、トイレの鏡の前は大混雑だろう。

 ――結局上村とは給湯室でお茶を淹れてもらって以来話してない。

 異動して一ヶ月、仕事が軌道に乗ったらしくかなり忙しそうだ。社内で顔を合わせることもあまりない。

 もしかしたら仕事にかまけて鍵の存在を忘れているのかもしれないとも思っていた。

 それならば、それでもいい。

 合鍵もあるし、実を言うとそう不自由しているわけでもなかった。


< 81 / 368 >

この作品をシェア

pagetop