グレープフルーツを食べなさい
「う、上村?」

「……あんた、俺を殺す気か?」

 痛みに顔を顰め、ゆっくりと体を起こすと、彼は私を威圧的に見下ろした。

 偉そうな態度のこの男は、間違いなく上村だ。 

「何よ、あんた。どうして勝手に入ってくるのよ?」

 私は上村に気づかれるのが嫌で、恐怖でまだ微かに震える手を背中の後ろに隠した。悲鳴を上げた心臓の音がなかなか治まらない。

 ――とりあえず、強盗じゃなくて良かった。

「勝手にって、俺ちゃんと鍵預かってたでしょ」

「なっ!? 私は預けた覚えないわよ! あんたが勝手に持って行ったんじゃない。……わかった! その鍵返しにきてくれたのよね?」

 私はさっさと鍵を返して欲しくて、上村に向かって右手を突き出した。



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