グレープフルーツを食べなさい
「先輩、ひょっとして震えてんの?」

 隠そうとした時は遅かった。上村に手首を掴まれて、隠しようがない。

「上村を泥棒かなんかだと思ったのよ。悪い?」

 反対の手で口を覆い、肩を揺らして笑いを堪える上村にムッとして、私は思いっきり上村の手を振り払った。

「それはそれは、驚かせてすみません。先輩も意外に可愛いところあるじゃないですか」

「一体何の用? 用がないなら鍵置いてさっさと帰んなさいよ」

 上村の一言一言が一々癇に障る。

 人を驚かせておいて、謝ったって口先だけで、絶対に悪いなんて思ってない。

 本当にこいつ、性格悪い!


「……用があるから来たんでしょ。とりあえず部屋に上げてくださいよ」

< 86 / 368 >

この作品をシェア

pagetop