グレープフルーツを食べなさい
「鍵を返すなら入れてあげるわ」

「……わかりました。帰る時に返します」

 嫌そうな顔でそう答えると、上村は体を折り曲げて、下から何かを拾い上げた。

「何それ……グレープフルーツ?」

 さっき三和土を転がったのはこれだったんだ。上村は掌に載せたグレープフルーツを「はい」と私に手渡した。

「それ、お土産です」

「はあ……ありがとう」


 とりあえず間に合わせで選んだのだろうか。上村からの奇妙な手土産を手に私は部屋の中へと向かう。

「お邪魔しまっす」

 上村は機嫌よく私の後についてきた。

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