グレープフルーツを食べなさい
 上村はまるで元からこの部屋の住人だったみたいに、どっしりとソファに腰掛けくつろいでいる。

 一人では広く感じるこの部屋も、背が高い上村がいると急に窮屈に感じるから不思議だ。

「それで、一体何しにいらしたんですか?」

 ソファに座る上村の前に立ち、腕を組んで彼を睨みつけた。

 相変らずの飄々とした態度に苛々していると、

「また他人行儀な。このうちは客にお茶も出さないんですか?」

 そう言って、上村はふてぶてしく私に笑いかけた。

「……くっ! わかったわよ。コーヒーとお茶どちらがよろしいですか?」

 自棄になってキッチンへ向かうと、「あ、待って」と上村に呼び止められた。

「今度は何?」

 上村は私を見ると、いきなり両手を合わせ私に向かって拝むようなポーズをした。

「先輩、やっぱりコーヒーはいいから何か食わせてくんない?」

「はあ? 上村、美奈子たちと飲み会だったんでしょ? ご飯食べてないの?」

 私がそう口にした途端、上村は何かを思い出したのか、思いっきり顔を顰めた。


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