グレープフルーツを食べなさい
「やー、うまいわ」

 そう言って、上村はテーブルの上の料理を片っ端から片付けていく。

 ……上村って、結構食べるんだ。なんだか意外だわ。

 その旺盛な食欲を前に、私はただただ唖然としていた。

「本当、上村よく食べたわね」

 上村に食後の珈琲を手渡しながら、テーブル一杯の空き皿を見回した。

「片付けはしますから安心してください」

「え、いいよそんなこと」

「いいから」

 上村は一気に珈琲を飲み干すと、私が片づけようと持っていた皿を奪い、キッチンへ運んで行った。

「先輩って、料理うまいんだね」

「母の仕事が忙しかったから、ずっと私が家事やってたのよ。うまいっていうか、慣れてるだけ」

 物心ついた時から、ずっと母と二人だった。蒸発したという父の顔を私は覚えてはいない。


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