グレープフルーツを食べなさい
「お母さんは今入院してるんでしたよね。もう長いの?」

「去年の秋から。でも母もそう長くはないと思うわ。だって、余命宣告を受けてるもの」

 そう話すと、一瞬上村が動きを止めた。驚いて当然だろう。会社の人間はおろかまだ誰にも話していない。

「先輩が入院費を払ってるって言ってたけど、他にご家族は?」

「いないわ。ずっと母と二人よ」

「……先輩も苦労してるんだね」

「……ありがとう、助かったわ。一人じゃ案外時間かかるのよ。おかげで早く片付いた」

「や、食べたの俺だし」

 最後に手を洗う上村にハンドタオルを手渡すと、「先輩、ごちそうさまでした」と頭を下げられて少し驚いた。

 こういうところ、上村は意外にちゃんとしてる。

「あ、先輩あれ食べようよ、グレープフルーツ」


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