グレープフルーツを食べなさい
「ああ、いいけど」

 私は冷蔵庫にしまっておいたグレープフルーツを取り出すと、包丁で真っ二つにして半分ずつガラスの器に入れ、ソファに腰掛けている上村にスプーンと一緒に手渡した。

「え、このまま食うの?」

「普通はそうでしょ。こうやって、スプーンで掬って食べるのよ」

 上村は私が食べる様子を興味深そうに見ている。

「グレープフルーツって、ミカンみたいに剥いて食うんだと思ってた」

 上村は私と同じようにスプーンを使い、果肉を一口、口に含んだ。

「う…すっぱ」

 そう言って眉を顰める。

「グレープフルーツなんだから当たり前じゃない。そんなに好きでもないならどうして買ってきたのよ」

「酔い覚ましにいいかと思ったんですよ。ここに泊まっていいなら別だけど」

「いいわけないでしょう? それ食べたら鍵を置いてさっさと帰ってね」

「つれないなあ」

 一口、二口と食べるうちにグレープフルーツの酸味にも慣れたのか、上村は最後の一粒まできれいに平らげた。


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