グレープフルーツを食べなさい
異動
「やだ、こんなに濡れちゃった。最悪」
「私も。今日みたいな日は傘なんてホント役に立たないよね」
会社の玄関ロビーで傘の水気を払いながら、他部署の女の子たちが話している。
私もバス停から会社までの僅かな道のりを歩いている間に、足元がすっかり濡れてしまった。
横殴りの雨で濡れたストッキングが気持ち悪くて、朝からついため息をついてしまう。
今年は梅雨入りが早く、五月下旬からずっと雨の日が続いている。
いつ空を見上げても頭上に広がるのは鉛色の重たい空で、それだけで何だか心が塞いだ。
「おはようございます、三谷先輩」
「ああ、おはよう上村」
「雨ひどいですね」
「本当ね」
自動ドアの内側に、上村がいた。この蒸し暑い中でも涼しい顔をしている。
隣の女の子たちが上村を意識して、視線を送ってくるのがわかった。