エトワール
序章
それは、突然の雨だった。
大学からの帰り道、強まる雨足に堪らず彼女は走り出す。

こんなことになったのはきっと、いつもとは違う道を通って帰ろうなんて気まぐれを起こしたせい。

そうでなければ、こうして雨に濡れながら全力疾走することもなく、今頃無事に家に帰り着いていたはずだ。

『今日のお天気は快晴。気持ちよく晴れ渡った青空が広がり、絶好のお洗濯日和となるでしょう』

時間がある時はいつも見ている朝のニュース番組で、笑顔の素敵なお天気お姉さんがそう言っていたのが、気まぐれを起こすに至った理由というか、原因というか、まあきっかけだ。

そんなに天気がいいのなら、散歩がてらいつもとは違う道を通って帰ってみようなんて思ったのが、間違いだった。


「うう……雨だって知っていたら、ロッカーの置き傘持ってきたのに」


眼鏡が濡れて視界がぼやける中、ひとまず雨宿りできそうな屋根を求めてひたすら走る。

運動はあまり得意ではないうえに、眼鏡が濡れているせいで前がよく見えず、足元がおぼつかない。
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