涙と ホームランと ありがとう
玄関でカチャリと鍵の開く音がした
「お帰り」妻の冴子が出てきた
「ただいま」「負けたって?竜也緊張してなかった?」「なんで知ってるの?」予想はついたが聞いてみた。
「来栖君のママからメールが来たからね」キャプテン来栖の母親とは仲が良いらしい。
「打てなきゃ勝てないよなぁ」がっかりモードで話す秀治。
「打てないのはサイファーズの伝統みたいよ」冴子が身も蓋も無い事を言った。
「そんな伝統ってあるかっ!」
「そうね…まだ練習してるのかしら?」
「反省会してから練習あるみたいだよ、帰って来たら竜也と銭湯でも行ってこようかな」
「うん、行ってきたら?用意しとくから」
そう言いながら冴子がお風呂の支度をし始めた。午後一時から試合があり少年野球とはいえ2時間の試合時間だ、いっちょ前である。練習が終わって帰ってくるのは夕方の五時を過ぎるだろう。
冴子が支度をしながら「あたしも行こうかなぁ」「うん、たまには行こうよ」と誘ってみた。前は家族四人でよく行ったものだが、竜也の五つ違いの姉の詩織は一緒には行きたがらない、親と一緒に行動したがらない年頃だ。だからといって詩織を抜きに三人で行くとふて腐れる、だからもっぱら秀治と竜也の二人で行く事が多い。



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