小さく笑ったあなたの目には
突然の告白に私はただ呆然としていた。

クラスメイトもただ呆然としていた。

教室内は静まり返り、誰かがペンを落とした音が聞こえた。

彼はほんのりと赤くなった耳を触りながら、

「ただ、それだけなんだ。付き合ってほしいとか、そういう訳じゃないから。」

そう言った彼は静かに教室を出ていった。

彼の真っ赤に染まった耳を隠しながら。

そのあとクラスは大変だった。

全部聞こえていたらしく、色々な意味でみんなが喋っている。

友人が興味ありげに私のもとへとやって来た。

「キミ!すごいじゃん!」

「キミ、返事とかってどうするの?」

「キミにもついに彼氏が!!」

「いいなぁ。私もあんな風に告白されたいよ。」

みんなが口々にそういうけれど、私には何がなんだかわからなかった。



放課後。

私は教室に残り、掲示物を作成していた。

チョキチョキと切るハサミの刃と紙の擦れる音、校庭で練習している野球部の掛け声とバットに球が当たる音だけが教室の中で響いていた。

その時、急に風が吹き、紙が飛んだ。

カーテンが揺れ、近くの木がカサカサと音をたてた。

「あ。」

私は紙をとるために席を立とうとしたきだった。

「落とし物はこれかな?」

あの人が紙をもってドアの近くに立っていた。

どうやら、少し遠くまで紙が飛んでしまったらしい。

「ありがと。」

私は紙を持ってきてくれた彼に言った。

「佐倉さん、告白されたんだって?」

「うん。」

「よかったね。返事とかはしたの?」

「ううん、まだ。」

「そっか。」

そう言うと、彼は

「それじゃ。」

と言って、私に背を向けた。


前の私だったら、それで終わりだっただろう。

でも、今は違う。

彼に彼女ができて、

私は告白されて。


私はまだなにもしてないじゃないか。



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