小さく笑ったあなたの目には
次の日、僕は彼女に何を言われるかとびくびくしていた。

昨日は彼女の顔も見ずに帰ってしまったのだ。

「やっぱり、やめときゃよかったかなぁ。」

みんなの前で言われたら、恥ずかしいに決まっている。

「おはよ、キミ。」

「うん、おはよ。」

彼女が友人に返事を返す様子を見ていると、あることに気づいた。


彼女の目に光が戻っていた。

目尻は赤いが、表情は明るい。

あぁ。

この顔だ。

僕が好きなのは。


「佐倉。おはよう。」

「おはよ。」

でも、僕に向けられた目は、嬉しいけど、悲しいような目をしていた。

鮮やかな絵の具に青い絵の具が混ざる前の色。

まるで、僕は彼女の上の存在だと言うような。


昼休み。

少し話があると彼女に言われた僕は友人に冷やかされながら、中庭へと向かった。

「どうしたの?」

「昨日の返事。」

そう言った彼女は椅子に座ると遠くの方を見た。

彼女の茶色が混じった肩までの髪が、風で揺れた。


「昨日ね。好きな人に告白したの。」

一瞬時間が止まったかと思った。

神崎か。

でもあいつには恋人がいる。

それを彼女は充分わかっている。

「そしたらね、知ってるよ。って言われちゃった。」

あいつ、わかってたのか。

でも実際、この学年にあいつのことが好きではないやつなんてほぼいないだろう。

僕も告白している女の子を何度か見たことがある。

勘が鋭いのだろうか。

「その時ね。私わかったの。」

ん?

どういうことだ。

話の流れがおかしい。

「自分には勇気がない、臆病者だって。

相手に勝手に期待して、自分は動かない最低な野郎だって。

勇気を出した人を馬鹿にする、クズ、だって。」

目から涙を溢れさせ、必死に嗚咽を我慢して。

「だから、勇気を出して、言ったあなたに、私はきっと、相応しくない。」
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