かわいい犯罪
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「全く、なんですかこの体たらくは…」
苦笑の中に少しの愛おしさを混じえて、自分の肩を頼りに歩く君を見ます。普段は見えることのない頭の天辺が描く綺麗なサークルに思わずときめきます。撫で回したい衝動が押し寄せて来ますが、恥ずかしがり屋の彼が嫌がることなんて明白なのです。
「…ねえ」
酔っている時の彼の耳は外界の音を遮断します。なんとまあ都合のいい耳だろう!と今まで思っていましたが、今夜ばかりは私にとっても都合がいいのです。
「ねえ!」
それでも一応本当に聞こえていないことを確認するためにわざと大きな声を彼の耳元であげてみます。
「ぁ…」
反応はありました、ですが続く言葉はありません。声でなく、耳にかかった息に反応したのでしょう。
――やりますよ、私。
これからしようとすることを思うと胸がどきどきして、興奮が抑えられません。私なんかに上手く出来るのかという不安も沸き上がってきます。
でも、今夜じゃなきゃ意味はないのです。今夜が、私に残されたたった一回の――