かわいい犯罪
2
毎朝僕を起こそうと自身を震わせ、近隣迷惑になりかねない騒音を響かせるそれが、しかしその日鳴ることはなかった。
既に高度を上げている太陽に冷や汗が落ちる。
――ああ、なんでこんな日に!
心の中で悲鳴をあげながら、十時二十三分で止まったまま動かない目覚まし時計を壁に投げつけ、るとボロアパートの薄っぺらい壁は簡単に破壊出来るだろうという理性を働かせ、まだ温もりの残る布団に叩き落とす。
暫く洗っていない布団はぽふっと間抜けな音を立てて、埃を放った。
「うわっ」
口を手の甲で塞いで後ろへ仰け反るが遅く、埃を吸い込んでしまった。
喉の奥に何かへばりつくような感じがして気持ちが悪い。
むず痒さと苛立ちを少しでも解消しようと喉のあたりに爪を立て引っ掻く。
残念ながら効果はあまりなく、ただぽろぽろと汚い垢が落ちるだけだ。
――なんでなんでなんでなんで!!
とりあえず正しい時間を把握しようと携帯電話を探す。しかし、
「あれ、ない」
机の上、布団の下、台所、玄関、脱衣所、便所、ありとあらゆる可能性を当たってみたが、見つかる気配はない。
「くそっ」
床を蹴り付ける。
するとたまたま足の指が落ちていたリモコンの電源ボタンを押したらしく、テレビが点く。
画面に見慣れた女性タレントと、名前だけなら幾度と聞いた、女子どもの間で人気の俳優が映し出された。
かっこいいかっこいいと聞いていたものだから、僕の中での彼に対するハードルは天井知らずに上がっていた。
だからだろう、なんだか白馬の王子を待っているのにロバに乗った王子がドヤ顔で現れた時のような気分になった。
そんな経験はないのだけれど。
だが、俳優の頭の上、テレビの左上に表示された赤く太い数字を見て、そんな気分は一掃される。
12:47
「あ…」
意識が数字の前で立ち尽くす。
そこへ、今更のように着メロが割り込んできた。
僕のズボンのぽっけからだった。