かわいい犯罪
3

「もう、二時間も待たされたんですから今日のお昼ご飯は君の奢りですよ?」
そんな可愛いことをいいながら、彼女は全然可愛くない値段のカフェへと僕の手を引っ張った。
二時間の遅刻をそれでチャラに出来るならなんてことはない、とは到底言い難い値段だが、しかしここで金の出し惜しみをすれば僕は後で後悔するだろう。
なんて言ったって、今日は僕と彼女の最後のデートなのだ。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「二人です」
店員と彼女のやりとりを聞き流しながら、このお洒落な空間には場違いと言えるよれよれのTシャツに目を落とす。
分かってたらちゃんと準備をしたのだが、彼女から拗ね気味の声で電話がかかって大急ぎで身支度を整えたものだから、お洒落に気を使う暇などなかった。
というのは言い訳に過ぎず、お洒落に気を使ったところで今より少しましになったくらいで、あまり変わらないけど。
それでも、ここまでの場違い感は出なかったはずだ。
奥の席に座る女子高生らしき二人が笑うのを見て、僕のことを笑っているんじゃないかと思わず身を竦ませる。
そんな僕を知ってか知らずか、彼女はテラス側の席を選んでいた。
良く言えば開放的な、悪く言えば外から丸見えの席だ。
「あのなぁ…」
僕が何かを言う前に彼女は素早く席に着き、悪戯っぽく笑った。
出かかっていた文句は、彼女の笑みに引っ込む。
続きが見つからず、僕は黙って向かいの席に腰を落とした。


――僕は彼女を好きすぎる。
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