氷と魔女《specialstory 完結》
ドン


私の胸ぐらを掴んだまま春美は私を壁に追い込む。



「あんたねえ!素直に言いなさいよ!

あいつらに言えないのはわかるわよ?そりゃ!私だって、千草の立場なら言えない!」


春美のこんなところを見たことがない。

喧嘩だってしたことないし。

あの森での時より、何倍もの気迫を出している。


「本当は、嫌なんでしょ⁉︎みんなと離れるのが!
この案を出したのは確かに千草だった。けど!

私も一緒にそのことについて何回も考え直そうって言った!

でもあんたは言った!『私は覚悟ができてるから』って!

そんなの全部嘘じゃない!」


「嘘じゃない!」

「なら、なんで…!なんで!」

春美は私をにらんだ。


「あの子たちのことを話した瞬間、切なそうな顔をしたの⁉︎
なんで私にその計画を伝えなかったの⁉︎とっさに考えたからでしょ⁉︎

なんで…なんで!その計画を話した瞬間に…」


春美の私の胸ぐらに伸びていた手の力がゆるまった。

春美はうつむきながら、小さく、小さくつぶやいた。


「あんた……泣いてるのよ」


「…………泣い、ている…?」



私は右手で目の下に触れる。

右手の人差し指に液体がまとわりついた。


「悲しかったら悲しいって言ってよ!
私になら、言えるでしょ?

もう、何回もあなたのわがままを聞いた!
私も聞いてもらった!

でも…まだ、信じてくれないの?信じてよ…私を。

なんでも話せるぐらいに…」



春美も泣いていた。


小さい肩を揺らしながら、泣いていた。


「ごめん……ごめんね、春美。聞いて…」


「……ん」


私は春美の震えている肩にそっと手を置いた。

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