3-俺様の家で
姉ちゃんの部屋に
この間から、見知らぬ姉ちゃんが近所にいるんだ。
俺様は、あの姉ちゃんは絶対に魔法使いだと睨んでいる。
その魔法使いは、うちの姉ちゃんと仲良しだ。
なんと今日は姉ちゃんの部屋に遊びに来ている。
その魔法使い……桃香のことを探る絶好の機会じゃねえか!
今日こそ桃香が魔法使いだってことをあばいてやる。
まずは、姉ちゃんの部屋を盗み聞きだ。幸い俺様の部屋と姉ちゃんの部屋はとなり。壁越しに話を聞いてやれ。
「……よね…………」
「そうそう……だから……」
だめだ。肝心な話はひとつも聞こえねえ。かろうじて笑い声だけが聞こえてくる。しかし、なんなんだろうな、桃香の声を聞くと顔がニヤニヤしちまう!そんなつもりはないのに!なんなんだ。
よし。部屋の扉の前に行ってやれ。
ここなら少しは声が聞こえる。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
やべ!ねえちゃんが出てくる!隠れる暇ねえ!
ガチャ
「なにやってんのよ。向こう行きなさいよ」
「べ、べつに!俺だっていま部屋から出てきたんだよ!」
「あら?勝太くん……だったわよね、お邪魔してます」
うわ!天使の声……じゃなかった。魔法使いの声だ!やべ!にやけるな俺様!
俺様は階段をかけおり、台所に走っていった。べ、べつに逃げたんじゃないぞ。
台所では母ちゃんが桃香と姉ちゃんのために、ジュースとお菓子を用意していた。しめた、姉ちゃんの部屋に入る口実ができた。
「母ちゃん、それ、姉ちゃんの部屋に持っていくんだろ?俺持っていくよ」
「あら助かるわ。じゃ、勝太のジュースも持っていきなさい」
母ちゃん、ナイス!
「ちょっとやめてよ。せっかく桃香と話してるのに、勝太なんか来たら、迷惑!」
ちきしょう、トイレから出てきた姉ちゃんに阻止されちまった。
そのまま何時間も試行錯誤したが、結局話は聞こえず、桃香の笑い声にニヤつく魔法をかけられっぱなしだった。
夜になり、母ちゃんが桃香を夕食に誘った。母ちゃん、今日は最高の働きをしてくれるじゃねえか!
夕食。いつもの席に座った俺様は、もしかしたら、俺様のとなりに桃香が座るんじゃないかとドキドキした。
思わず、イスをパタパタとはらい、きちっと整えた。
トン トン トン トン
桃香と姉ちゃんが自分の部屋がある2階から降りてくる音がした。
石化の魔法でもかけられたか。体がこわばって動けない。
ぎゅっと目を閉じていると、俺様の横のイスがガタンと動いた。心臓が飛出ちまう!
そっと目を開けると、横に座ったのは姉ちゃんだった。ちきしょ。
油断して顔をあげたら、目の前が桃香だった。
しまった、魔法をかけられた‼
もうだめだ。顔が熱くなってくる。胸もなんだか苦しい。ああ、このままやられちまうのか……。
「早く食べなさい」
とか母ちゃんは言うけど、俺様が魔法にかけられてることに気づかねえのか??
「勝太くん、おしょうゆ取ってもらえる?」
き、気安く呼ぶんじゃねえ。お、おしょうゆぐらい……
うっかり、俺様の手と桃香の手がぶつかっちまった。
俺様の手から腕を通って体全身に魔法をかけられる。
しょうゆが俺様の手を離れ、桃香の腕にぶつかり、飛んで、桃香の膝の上に落ちた。
「桃香‼」
姉ちゃんと母ちゃんがタオルで桃香にかかったしょうゆを拭き取るが、とれない。
「桃香、これ洗った方がいいわ」
俺様はいたたまれなくなり、部屋に逃げ込んだ。
しょうゆだらけになった桃香の姿が頭から離れない。桃香の悲しそうな顔。汚れた洋服。
「勝太‼出て来なさい!ちゃんと桃香にあやまりなさいよ!」
部屋をノックするのは姉ちゃんだった。
違う!俺様はあの時桃香に魔法をかけられたんだ!俺様は悪くない!絶対謝るもんか!
俺様は部屋に閉じこもり、返事もしなかった。
姉ちゃんの怒鳴り声がやみ、しばらくすると、階段を上がる音がする。母ちゃんでも姉ちゃんでもない音。俺様はすぐに桃香だとわかった。
「勝太くん、ごめんね。勝太くんのせいじゃないからね。自分でおしょうゆこぼしちゃったのに、勝太くんのせいみたいになっちゃって」
俺様はちょっと恥ずかしくなった。しょうゆを手から放したのは俺様なのに、桃香のせいにして逃げてしまったんだ。
だめだ、ここで出てって謝らなけりゃ男じゃねえよな。
俺様は勇気を振り絞って、扉をあけた。目をギュッとつぶったまま頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!」
「もういいのに、うふふ」
桃香の笑い声にちょっとニヤついちまって顔を上げると、目の前にいたのは風呂上がりの桃香だった。
だめだ……
やられた………………
おしまい
俺様は、あの姉ちゃんは絶対に魔法使いだと睨んでいる。
その魔法使いは、うちの姉ちゃんと仲良しだ。
なんと今日は姉ちゃんの部屋に遊びに来ている。
その魔法使い……桃香のことを探る絶好の機会じゃねえか!
今日こそ桃香が魔法使いだってことをあばいてやる。
まずは、姉ちゃんの部屋を盗み聞きだ。幸い俺様の部屋と姉ちゃんの部屋はとなり。壁越しに話を聞いてやれ。
「……よね…………」
「そうそう……だから……」
だめだ。肝心な話はひとつも聞こえねえ。かろうじて笑い声だけが聞こえてくる。しかし、なんなんだろうな、桃香の声を聞くと顔がニヤニヤしちまう!そんなつもりはないのに!なんなんだ。
よし。部屋の扉の前に行ってやれ。
ここなら少しは声が聞こえる。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
やべ!ねえちゃんが出てくる!隠れる暇ねえ!
ガチャ
「なにやってんのよ。向こう行きなさいよ」
「べ、べつに!俺だっていま部屋から出てきたんだよ!」
「あら?勝太くん……だったわよね、お邪魔してます」
うわ!天使の声……じゃなかった。魔法使いの声だ!やべ!にやけるな俺様!
俺様は階段をかけおり、台所に走っていった。べ、べつに逃げたんじゃないぞ。
台所では母ちゃんが桃香と姉ちゃんのために、ジュースとお菓子を用意していた。しめた、姉ちゃんの部屋に入る口実ができた。
「母ちゃん、それ、姉ちゃんの部屋に持っていくんだろ?俺持っていくよ」
「あら助かるわ。じゃ、勝太のジュースも持っていきなさい」
母ちゃん、ナイス!
「ちょっとやめてよ。せっかく桃香と話してるのに、勝太なんか来たら、迷惑!」
ちきしょう、トイレから出てきた姉ちゃんに阻止されちまった。
そのまま何時間も試行錯誤したが、結局話は聞こえず、桃香の笑い声にニヤつく魔法をかけられっぱなしだった。
夜になり、母ちゃんが桃香を夕食に誘った。母ちゃん、今日は最高の働きをしてくれるじゃねえか!
夕食。いつもの席に座った俺様は、もしかしたら、俺様のとなりに桃香が座るんじゃないかとドキドキした。
思わず、イスをパタパタとはらい、きちっと整えた。
トン トン トン トン
桃香と姉ちゃんが自分の部屋がある2階から降りてくる音がした。
石化の魔法でもかけられたか。体がこわばって動けない。
ぎゅっと目を閉じていると、俺様の横のイスがガタンと動いた。心臓が飛出ちまう!
そっと目を開けると、横に座ったのは姉ちゃんだった。ちきしょ。
油断して顔をあげたら、目の前が桃香だった。
しまった、魔法をかけられた‼
もうだめだ。顔が熱くなってくる。胸もなんだか苦しい。ああ、このままやられちまうのか……。
「早く食べなさい」
とか母ちゃんは言うけど、俺様が魔法にかけられてることに気づかねえのか??
「勝太くん、おしょうゆ取ってもらえる?」
き、気安く呼ぶんじゃねえ。お、おしょうゆぐらい……
うっかり、俺様の手と桃香の手がぶつかっちまった。
俺様の手から腕を通って体全身に魔法をかけられる。
しょうゆが俺様の手を離れ、桃香の腕にぶつかり、飛んで、桃香の膝の上に落ちた。
「桃香‼」
姉ちゃんと母ちゃんがタオルで桃香にかかったしょうゆを拭き取るが、とれない。
「桃香、これ洗った方がいいわ」
俺様はいたたまれなくなり、部屋に逃げ込んだ。
しょうゆだらけになった桃香の姿が頭から離れない。桃香の悲しそうな顔。汚れた洋服。
「勝太‼出て来なさい!ちゃんと桃香にあやまりなさいよ!」
部屋をノックするのは姉ちゃんだった。
違う!俺様はあの時桃香に魔法をかけられたんだ!俺様は悪くない!絶対謝るもんか!
俺様は部屋に閉じこもり、返事もしなかった。
姉ちゃんの怒鳴り声がやみ、しばらくすると、階段を上がる音がする。母ちゃんでも姉ちゃんでもない音。俺様はすぐに桃香だとわかった。
「勝太くん、ごめんね。勝太くんのせいじゃないからね。自分でおしょうゆこぼしちゃったのに、勝太くんのせいみたいになっちゃって」
俺様はちょっと恥ずかしくなった。しょうゆを手から放したのは俺様なのに、桃香のせいにして逃げてしまったんだ。
だめだ、ここで出てって謝らなけりゃ男じゃねえよな。
俺様は勇気を振り絞って、扉をあけた。目をギュッとつぶったまま頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!」
「もういいのに、うふふ」
桃香の笑い声にちょっとニヤついちまって顔を上げると、目の前にいたのは風呂上がりの桃香だった。
だめだ……
やられた………………
おしまい