忘れた
駐車場に止まっていた大量の自転車が消えていて、ホッとした。


「ありがとうございました、本当に」


あたしはお礼を言って車を降りた。


「待って」


あたしは振り返った。


「君の名前は?」


あたしの名前…? 聞いてどうするの? 戸惑いながらも、あたしは答えた。


「東 奈緒(あずま なお)」


「そっか。俺は松葉 勇介(まつば ゆうすけ)。26歳、フリーター。

またね、奈緒」


彼は笑顔で手を振った。


いきなり呼び捨てなんて、びっくり。女慣れしてるのかな。しかも26歳? もっと若いかと思ってた。


それにしても、奈緒って呼ばれたの久しぶりだ。学校では東さん、家では姉ちゃん、だもんね。


ちょっと嬉しいかも。


そんなことを考えながら、あたしは軽くお辞儀をした。

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