忘れた
早水なんかのキスは、キスじゃない。


心臓が嫌な音を立てたもん。頭の中が、クエスチョンマークだらけだったもん。


勇介とのキスとは、全然違ったんだもん。


そう言いたかったのに、声が出なかった。


勇介の栗色の目が、すごく怖かった。


「俺、帰る」


そう言い残して、勇介は消えた。霧のように、あっという間に、いなくなった。


ポツンと取り残されたあたしの目から、一筋の涙が流れた。


悲しかった。


瑠衣に初めてシカトされたときよりも、机に落書きされたときよりも、もっとずっと悲しかった。


もう2度と、勇介と会えないような、そんな気がした。

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