忘れた
勇介の冗談に大笑いしていると、急に勇介は真面目な顔になった。


「奈緒、この前は悪かった」


そう言って頭を下げる勇介。


「そんな、もういいよ」


とあたしは慌てて言った。が、勇介は頭を上げない。


「俺は奈緒がこんなに好きなのに、奈緒は俺のこと本当に好きなのか、不安になった。

キスされたって聞いて、居ても立っても居られなくなった」


「あたし、勇介のこと、大好きだよ」


そう言うと、勇介は顔を上げた。不安げな顔でこっちを見ている。


うーん。どうしたら伝わるのかな。


そのとき、パッと閃いた。


あたしは腕をのばし、勇介の頬を手のひらで優しく包み込む。


ゆっくりゆっくり、引き寄せる。


勇介のふっくらとした唇が近づく。


綺麗な形のそれを、あたしの唇でそっと塞いだ。

< 125 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop