忘れた
「名前、分かる?」


彼の問いに、あたしは答えられなかった。全く思い出せないからだ。


わざわざ自転車を届けに来てくれたのに、失礼すぎる。あたし、最低…


沈黙するあたしに、彼は苦笑いした。


「勇介だよ、松葉 勇介」


「あッ、思い出しました。ごめんなさい、松葉さん」


「勇介でいいよ。あと敬語やめて。

俺、堅苦しいの嫌いだから」


「じゃあ、勇介…」


なんだか気恥ずかしくて、あたしはボソッと呟いた。


「自転車、ありがとう。わざわざごめんね」


勇介はニッコリ笑った。そのくしゃっとした笑顔は、子供みたいで可愛かった。


「ねえ、ちょっと出かけない?」

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