忘れた
「勇介、鼻水ついちゃう」


「奈緒のならついてもいいよ」


と俺が言うと、奈緒は俺の胸をパシッと叩いた。


「恥ずかしいこと言わないで」


そんなことを言う奈緒だけど、照れ隠しだって、ちゃんと分かってる。


きっと顔は真っ赤だ。


俺は思わず微笑んだ。





次の日の朝。


「勇介、あたし行くからね」


奈緒の声で目が覚めた俺は、急いで玄関へ向かった。


後ろから勢いよく抱きしめる。


「わあっ」


奈緒の反応が可愛くて、離したくなくなってしまう。


「ちょ、勇介、遅刻しちゃ…」


頭だけ振り返った奈緒の、ぷっくりした唇を、俺のそれで優しく塞ぐ。


ドサッとカバンが地面に落ちる音がした。


名残惜しいが、俺のせいで奈緒を遅刻させるわけにはいかない。


俺はゆっくり体を離した。


「行ってらっしゃい」


「い、行ってきます…」


赤面した奈緒は、駆け足で部屋を出て行った。


俺も続いて外へ出る。


俺は、奈緒の自転車が見えなくなるまで見送った。

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