忘れた
「はい?」


何を言ってるの、この人。


「だから、ちょっと出かけようよって。散歩だよ、ただの散歩」


部屋に居たいのに。外に出たくないのに。


「分かった。ちょっと待ってて」


あたしは大急ぎで部屋に戻った。部屋着を脱ぎ捨て、ジーパンに着替えながらあたしは考えた。


何で分かったなんて、言っちゃったんだろう。


ふと、イスにかけられた見慣れないパーカーが目に入った。勇介に借りたものだった。あたしはそれを持って、部屋を出た。


玄関のドアを開けると、勇介はあたしの自転車にまたがっていた。


「後ろに乗って」


「え…」


いやいや、それはちょっと。


「いい、いいよ。あたし重いからッ。あ、これ返す」


あたしはパーカーを突き出した。


勇介はそれを黙って取り上げ、自転車のカゴに放り込んだ。

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