忘れた
テーブルを拭いていると、同じくホール担当の北原さんがやってきた。


パンのネームプレートを並べながら、北原さんは俺に向かって旦那の愚痴をこぼし始めた。


これもいつもの恒例行事だ。


俺は適当に相槌を打ちながら、作業する。


そして話題は俺の女性関係へ…


彼女が出来たことは、この職場の人たちには報告済みだ。


「あんたも良い歳なんだから、結婚考えなきゃダメよ」


結婚か…


今の俺は、奈緒を養っていくことが出来るんだろうか。


時々、漠然とした不安に襲われることがある。


奈緒の幸せを思ったら、俺なんかよりもっといい人がいるんじゃないかって。


奈緒が羨ましい。


高校生のときは、こんなこと考えもしなかった。ただ毎日が楽しかった。


高3のあの出来事さえなかったら。


ああ、高校生に戻りたい。


そんなことを考えながら、開店に向けた準備を進める俺だった。

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