忘れた

忘れた

駅まで走って、電車に揺られること30分。


着いた駅には、あたしの自転車が置いてある。


そのまま病院へ自転車を走らせた。必死でペダルを漕いで、1秒でも速く…


病院へ着いたとき、時刻は夕方の6時を回ったところ。


カウンターで聞くと、勇介は集中治療室にいるとのことだった。


息を切らせて、そこへ向かう。面会謝絶は承知の上だった。


ICUと書かれた銀の扉の前で、勇介の母親らしき1人の女性が座っていた。


あたしが駆け寄ると、女性は立ち上がった。


勇介と同じ、栗色の目。真っ白な長い白髪に、とても小柄で痩せていて、目の下には何重にも隈が出来ていた。


女性は目を見開いて、制服姿のあたしを上から下まで、舐めるように見た。


「あなたが…東 奈緒さん?」


あたしは、ハアハア言いながら頷いた。


「あの子ったら…」


女性は静かに呟いた。

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