忘れた
「勇介に、会えますか?」


ダメもとで聞いてみる。


女性は、首を横に振った。


「あたしは勇介の母親の、松葉 洋子(まつば ようこ)です。わざわざ来てくれてありがとうね」


洋子さんによると、勇介が事故にあったのは3日前の夜。あたしと遊園地に行った日だ。


あたしを家に送り届けた後、信号無視した乗用車と正面衝突したそうだ。


手術で一命は取りとめたものの、目が覚めるかどうかは分からないらしい。


あたしはショックで涙が出てきた。銀色の扉に駆け寄って、手を付いた。


この中に、勇介がいるんだよね。


会いたいよ…


そんなあたしを、洋子さんが後ろから抱きしめてくれた。


あたしたちは、声を上げて泣いた。


勇介、勇介、勇介、勇介。


目を覚まして。


お願いだから。





それから3日後、勇介が一般病棟に移されたと、洋子さんからメールを貰った。


あたしは学校が終わると、その日もダンス練習をサボって、大急ぎで勇介の元へ向かった。

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