忘れた
それからあたしは、出来る限り病院へ通った。


ダンス練習はもうサボれないので、勇介に会いに行くのはダンス練習が休みの日や、土日に限られた。


病室には勇介のバイト仲間がいることもあり、あたしは彼らと顔見知りになった。


暗闇の中を自転車で走るのは怖いけど、勇介に会いたいという気持ちで、乗り越えられた。


今日は洋子さんはいない。


病室にはあたし1人だ。


「勇介。 今日はね、体育でバレーをしたの。あたし、みんなに上手だねって言われちゃった。

男子と半分ずつ体育館を使っててさ、あの早水まで、まあまあだな、とか言っちゃって…」


あ、勇介は早水の話をされるのが嫌なんだよね。


「ごめん、早水の話なんて」


勇介の反応は無い。


「勇介? あたし、早水の話してるんだよ? 怒らないの?」


勇介は黙ったままだ。


「勇介…返事してよ」


涙がポロポロこぼれる。


自分の非力さを呪った。

< 166 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop