忘れた
「勇介の姉の話は聞いてるかしら」


洋子さんの言葉に、あたしは静かに頷いた。


「そう…

勇介はね…自分が今、高校3年生だと思ってるの」


あたしは洋子さんの言っている意味が分からず、首を傾げた。


「あのね、18歳から26歳までの記憶が無いってこと。多分、あなたのことも覚えてないわ」


頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。


う…そ。


「なぜか、勇介の姉が家出したところで記憶が止まってるの。

あの子に何を言っても信じてもらえないから、鏡を見せようとしてたところに、奈緒ちゃんが来たの」


そんな…


信じられない。


「奈緒ちゃん。あなたは歩美…勇介の姉に、本当によく似てるわ」


そう言って、悲しそうに笑う洋子さん。


ショックだった。勇介の記憶が無くなってしまったなんて。


でも、自分でちゃんと確かめたい。


「あたし、勇介と話します」


あたしは覚悟を決めて、ハンカチで涙を拭くと、病室に戻った。

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