忘れた
「母さん、姉ちゃんが…自殺したって、本当に本当なのか?」


母さんは、唇をキュッと結んで、頷いた。


「俺の…俺のせいだ…

俺があの日、姉ちゃんを無視しなかったら…」


「それは違うッ」


母さんが金切り声を上げた。長い白髪を揺らして、ワナワナと震えている。


母さんも…老けたな。


「歩美が死んだのは、勇介のせいじゃない。自分を責めるのはやめなさいッ」


そう言った母さんの目から、大粒の涙がこぼれた。


俺はそんな母さんが見てられなくて、顔を背けた。


ふと、ベッド横の机に置かれた物体が、目に入った。


それはとても小さくて、薄っぺらくて、真っ黒だった。


「母さん、それは何?」


俺がその物体を指差すと、母さんは涙を拭って、言った。


「それは勇介の携帯電話よ。壊れなくてよかったわね」


「携帯…電話?」


戸惑う俺に、母さんは優しく言った。


「今は、誰もが電話を携帯する時代なの」

< 175 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop