忘れた
時刻は夜の8時。


面会時間の終了を告げる音楽が鳴り始めた。


そろそろ帰らなくちゃ。でも、まだ言いたいことが残っている。


「じゃあ…あたし、行くね」


そう言ってあたしはとりあえず立ち上がった。


「おう、またな」


…言わないと。


ダメでもともと!


「明日ッ…来れないかな。文化祭」


言えた。言えたよ、あたし。


勇介はパチパチと瞬きをして、あたしを見た。


そして視線を斜め上に動かして、頭をかく。


「あー、うーん。

行きたいとは思うんだけどさ、俺歩けないし…

入院中だから、無理だよ。

ごめんな」


そっか…そうだよね。


この怪我じゃあ、来れないよね。


でもさ、看護師に聞いてみる、とかじゃなくて、無理だよ、か。


「そうだよね。ごめん、無理言って」


あたしはそそくさと病室を後にした。

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