忘れた
「ああ、ごめん」


パッ、と早水があたしの腕を離した。


「べ、別に。言うほど痛くなかったし…

あの…さっきはありがと…

その…エレベーターで…」


ゴニョゴニョと小さな声で話すあたし。


口から白い息が出る。


案の定、道路を走る車にかき消されてしまったようで。


「え? なんだって?」


早水が眉をひそめて聞き返す。


「ありがとうって言ったのッ」


あたしは思い切って叫んだ。


ああ、恥ずかしい。


早水は驚いたような、呆れたような顔をした。


「そんな改まって言わなくてもいいよ」


そう言って、照れたように笑いを浮かべた。


「あのさ」


ここで、早水が切り出した。


「告白の返事がほしいんだけど」


ドクンッとあたしの心臓が跳ね上がった。


なるほど。


だから早水はエレベーターに飛び乗ったり、あたしをここまで引っ張ってきたりしたわけね。

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