忘れた
ごめんね。早水。


あたしの心は最初から決まっている。


「ごめんッ」


あんたの傘折っちゃった、みたいなノリであたしは謝った。顔の前で両手を合わせ、反省してますのポーズ。


しんみりするのは嫌だったから。


本当に申し訳なさそうな顔を作って、早水の面前に晒した。


「おま…なんて奴だよ」


そう言って早水は額に手を当て、盛大なため息をついた。


「最近お前元気なかったから、彼氏とうまくいってないんじゃねえかって、期待してたんだけどな」


ハハハ、と早水は力なく笑う。


「それに…お前、拒まなかったし。

手だってさ。ちぇっ、期待させやがって」


不機嫌な顔で、そっぽを向く早水。


拒まなかったって、キスのことだよね。勇介と錯覚してたなんて、口が裂けても言えないや。


「お前の彼氏、どんな奴なの?」


「勇介は…恩人なの」


初めて会った日の夜。あたしを救ってくれた、ヒーロー。


「勇介にはすごく恩があるの。あたしを変えた人。

だから今度は、あたしが勇介を助けてあげなきゃダメなの」

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