忘れた
あたし、勇介くんの前だと、頑張っちゃうの。


自然体で居られないの。


それに気づいたのは、つい最近。


2年近く付き合ったけど、ごめんなさい。


あたし、好きな人が出来た。


その人の前だと、自分でもびっくりするくらい自然体なの。


言いにくいんだけど、勇介くん、いつも格好つけてたでしょう?


勇介くんも、あたしの前じゃ自然体で居られないんじゃない?


「ふっざけんなよッ」


ゴン、と鈍い音が響くと同時に、俺の拳にジワリと痛みが広がる。


今のパンチで壁がヘコんでしまった。


だけど構わない。


俺の部屋なんだから。


家に帰ってきてからというもの、俺はとてつもない感情に襲われていた。


怒り。


悲しみ。


虚しさ。


体の内側から湧き出る負の感情を、俺は物に当たって発散した。


クソッ。


何が自然体だ、バカヤロウ。


今の今まで、俺は香に気を遣われていたのか。


香は優しいから、なかなか別れ話が言い出せなかったんだろう。


バカヤロウだ、俺は。

< 228 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop