忘れた
シンとした会場に、開さんの歌声が響き渡った。


なんだろう…


この、心にグッとくる感じ。まさに、透き通るような声、だ。


歌詞からして失恋ソングのようだ。


『ーー過去の自分に会えたなら 伝えたい 今 隣にいる女が どれくらいいい女かってこと

ーーごめんな ありがとう さようなら』


あ…やばい。


自然と目頭が熱くなる。今のあたしには、失恋ソングは心の奥の奥まで響く。


しかもこんな、綺麗な声で歌われたらもう…


あたしの涙腺は崩壊した。


開さんたちの演奏が終わるまで、あたしの涙は止まらなかった。


気がつくと、隣の梨沙が背中をさすってくれていた。


優しいな、梨沙は。


あたしが泣いている間に、ライブは終了したようだ。


ゾロゾロと出口に向かう人の波が、あたしたち2人に押し寄せる。


そんな波に負けじと、あたしと梨沙はしっかりと手を繋いでその場にとどまっていた。


なぜ帰らないかというと、開さんに言われたからだ。


ライブが終わっても、会場に残るようにって。

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